見学お断りだべ! //オマケのオマケ//









言っておくけど、決して他意はなかったのよ?



アクアリウムバー裏の通路で、客人に会った。

「あら、トサカ君。それ、ルフィ達に持っていくの?」
ものすごく色味がちらかった風貌の客人は、釣り道具一式を大事そうに抱えてびしっと背筋を伸ばし、「はいだべ!」と威勢のいい声をあげた。
一応客人なのに、うちのクルーに用事を聞きまわってはあれこれ動きまわってる、そこまで働かなくてもいいとは思うんだけど、どうやら聞いた話うちの一味のしもべ志望だというし、手伝ってくれるという意気込みをわざわざ潰すこともないわよね?
「ルフィ達の用事はそれで終わり? だったら、私、本の整理をしたいんだけど手伝ってもらってもいいかしら」
「もちろんだべ」
「じゃ、測量室の方に来てね」
ニッコリ笑って、甲板に出るドアへと歩く背中が喜びそうな耳寄り情報を投げる。
「そうそう、今、外でゾロとサンジ君が手合わせしてるわよ。トサカ君、見たがってたでしょ」

ゾロとサンジ君は飽きもせず毎日ケンカを繰り返してる。
そう、ただのケンカ。それを先日トサカ君に「手合わせ」って言ってみたのに、特段の他意はない。
2人のケンカなんか普段は目もくれずスルーだけど、どうにも暇を持て余した時に眺めてみたことはある。素早く技を繰り出し受け流しながらもう次の動作に入ってる、一連の動きはまるで流れるようで、手合わせと表現してもおかしくはない。

(演武みたいにも見えるわよね。間に挟まる暴言がなければだけど)

「ゾ、ゾロ先輩とサンジ先輩………が………手合わせ、だべか?」
あれ? トサカ君が顔を引き攣らせてる。
「見てきたら? ルフィ達も見てたわよ」
「ええええぇぇえ?!」
「………どうしたの?」
悲愴な表情で半泣きになりながら、トサカ君は「えらいこっちゃ」「そんな、衆人環視…!?」とか意味のわからないうわ言を呟いてる。
首を傾げてしばらく待ってみたけど、その場に凍りついたみたいに動かない……どうなってるのかしら?

「どしたんだ?」
その間に、機関室の方からウソップが顔を出した。
「あらウソップ。外に居たんじゃなかったの? ゾロとサンジはまだやってる?」
「やってると思うぜ。フランキーとブルックはまだ見物してた。物珍しいのかね」
「すぐ見慣れて無視するようになるわよ」
「だろうな。おれは作りかけの道具壊されるの嫌だからさっさと退散だ」
「見境なくどこでも始めるからホント困るのよねー。ま、見ごたえはあるというか、すごい動きだけど」
「あいつらの体力ってどうなってんだろうな。しょっちゅうあんなやっててよく体がもつもんだぜ。おれにゃ無理だ」
「あたしだって無理よ。あいつらに対抗できるのはルフィくらいでしょ。――ところで、そろそろ溶けてくれない? トサカ君」
あわあわと口を開いては閉じをせわしなく繰り返すトサカ君を、ウソップが「どしたんだ?」と覗きこむが、ぶんぶんと首を振るばかりで埒があかない。
両手で目を覆って、ぶつぶつと切れ切れに呟く、その音に耳を澄ませば、
「やってるんだべか?」
「ほんとにそんな場所で?」
「皆様にとっちゃあ普通のことなんだべか?」

…………やっぱり意味が分からない。

「もう、あの2人の手合わせ見たいんじゃないの? 見たくないならそれでいいから、手に持ってるのをルフィに渡して来たら? 本の整理に行きましょ」
「はァ………でもルフィ先輩は甲板にいらっしゃるし………」
その時、破壊音が耳を劈いた。

ドン! ガッシャーン!!

ドアの蝶つがいが弾け飛び、扉板が内側に倒れる。
そこにはゾロが乗っかっていた。黒い足が外からにょっきり姿を現し、板ごとゾロの肩を踏みつける。
「どーした、『海に沈んどけ!』って蹴りやがったくせに、方向が違うぜ?」
「るせェ、てめェみてェな方向音痴と一緒にすんな」
「は、おおかた海とアクアリウムバーを間違ったとかだろ? おめーの頭じゃそんなもんだ」
「てめェどのツラ下げて人の頭のデキを語ってんだ?」
「このツラだ」
「そーかそのツラだな。……蹴り飛ばす!」
「やってみやがれこのぐるぐる渦巻き!」
サンジ君の蹴りを済んでの所で避け、ゾロは身を翻し立ちあがる、再びの戦闘態勢。
めまぐるしく足と刀が繰り出される――――狭い通路の中で。

すううううっと息を限界まで吸いこむ。
「止 め な さ ー い !!」
盛大に吐きながら怒鳴ると、サンジ君はぴたっと動きを止めた。
そんなサンジ君に切りかかっていたゾロの刀が、サンジ君に触れる寸前で止まる。
「アンタ達、せめて外でやって」
怒りをたっぷり塗した声音で言い足して、ドアを指で指し示すと、サンジ君は眉をへにゃりと下げて、「ごめんよナミさんー、もうマリモの相手なんか止めるから!」と謝り倒し、「そうだ、お詫びにスペシャルドリンクを用意するね!」と言い置いて走って行ってしまった。




「あのぅ……」
消えそうな声に目をやると、トサカ君が所在なさげに佇んでいた。
派手な姿の色彩がどこか褪せたように見えるのはどうしてかしら。
「手合わせって…………これ、すか?」
「そうよ。すごいでしょ? 船をしょっちゅう壊すからたまったもんじゃないのよ」
「…………そ、……すか」
憔悴した声がぷちんと途切れる。
「トサカ君?」
「おぅ、おめェも居たのか」
ゾロが話しかけたのはトサカ君。話しかけられたトサカ君は、瞬時に全身の毛を逆立てた…………ように見えた。
「ゾ、ゾロ先輩! ………て、手合わせ、……見せて、もらったべ!」
ゾロはふんと鼻を鳴らして、言った。
「手合わせってお前、コッチが見たかったのか?」
「そ、うだべさ!」
「ふぅん」
ゾロは意味ありげに傾けた視線を送る、送られたトサカ君は頬を引き攣らせてる。
やがてゾロはにやりと笑った。
「ならいい。アッチでもちょびっとなら見せてやってもいいと思ったが、よく考えりゃあ、何で見たいのか、理由によっちゃそれなりの覚悟をしてもらわねェとならねェからな」
「そ、そんなこたァ………」
ゾロは鋭い光を瞳孔の奥に潜ませて口端を上げる、――――猛獣が笑ったらこんな感じかしら。
隠す気のない威嚇を受けて、トサカ君がひたすら恐縮している、その様子に、さっきからの不可解なモロモロが繋がった気がした。

(あ…………、見……てはないのかしら。でも、知っちゃった、みたいな?)

「手合わせ………」
ぽそりと呟くと、トサカ君がぎくりと肩を揺らす。
恐る恐る向けられた目は、どことなく恨めしそうだった。

ちょっと待って、違うわよ? 
私はこのバカカップル略してバカップルが毎日ケンカしてるってホントのことを教えただけよ。
手合わせって表現でも間違ってないと思ったからそう言っただけよ?
実際毎日ケンカしてるんだもん。
毎日イチャイチャもしてるけど。
決して、わざとこいつらの関係を隠してややこしい勘違いをさせようなんて考えてないわよ。
というかトサカ君、ひょっとしたら、手合わせ=エッチ、みたいな勘違いしてる? っぽい? けど、どうしてそうなってるのよ?
もう、恨めしそうな目で見ないでよ。
文句なら心の狭い魔獣に言ってちょうだい!

「………ゾロ、アンタもちょっとのことでも誰が相手でも構わず威嚇すんの止めなさいよ」

溜息をつきながら少しばかり援護射撃を試みると、魔獣は表情筋をぴくりとも動かさず「るせェ」と唸った。
だけどそれ以上トサカ君を威嚇するのは止めたみたいで、踵を返した背中はほどなく視界から消えてどこかへ行ってしまった。

――――どこかって、キッチンに決まってるだろうけどね。

「トサカ君、当分キッチンには近寄らない方がいいわよ?」
念のために忠告すると、こくこくと首がもげそうなほど大きく何度も頷くトサカ君は、ちょっとだけ涙目だった――――お気の毒様。









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さらにオマケ。
周囲から見たバカップルの図は、(私が)ものすっごく楽しいです!!






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