見学お断りだべ!






(夢見てるみたいだべ〜)
麦わらの一味の御船、あの、あの!あの!! サウザンドサニー号!!!
に、乗れるなんて、感激だべさー!!

おれの名はバルトロメオ。
おれらバルトクラブは、ルフィ先輩にお会いするという念願をドレスローザで果たし、先輩方をゾウにお送りして涙ながらにお別れしてからというもの、再会の日を一日千秋の思いで待ってたんだが、なんという幸運か! ある日、航海の途中でルフィ先輩達の船に出くわしたんだっぺ!
あまりの感激に全員操舵を放っぽって船に手を振ってたら、その間におれ達の船が岩礁にぶつかってしまった、そのせい、いや、そのおかげで、サウザンドサニー号に避難させてもらえたんだべ、まったくこの上ない幸運だべ!

てことで今サニー号に乗船してるわけなんだが、さらにさらに僥倖なことに、船には麦わらの一味オールスターズが勢揃いしていらっしゃったんだべ!
つまり、まだ会ったことのなかった先輩方にお会いできたんだっぺ! 
ナミ先輩はそれはお美しく聡明な航海士で、ブルック先輩は気さくで骨身のオールマイティーな音楽家で、チョッパー先輩は先端医療に通じたもふもふな船医で、サンジ先輩はびしっとスーツを着こなした一流の海のコックでいらっしゃった。
皆様、おれが想像していたよりもご立派で、お願いしたらば快くサインもくださったけども、色紙を差し出す皆様方には後光が射していて、さすがルフィ先輩のクルーだべさ!

だが、その中で印象が想像とちっとばかし違った方がいるとすれば、黒足のサンジ先輩だべか。
この方は、おれが想像してたイメージからはちっと離れた御方だったべ。手配書が写真に変わってからまだ日が浅いせいもあると思うけんど。
びしっと黒のスーツを着こなす姿はどこぞの紳士然としてらして、コックってこんなだっけなと思っちまったんだが、ありがたいことに夕飯の御相伴に預からせてもらったらば、それはそれはほっぺが落ちるほど旨くて、平伏したべ!!
「男からの感謝は受け付けてねェんだよ!」と声高に罵る清々しいほどの漢っぷりでいながら、船が沈みかけて疲れきったバルトクラブの面々に熱い飲み物を振舞ってくださる温情もお持ちであり、そんでこれが一番驚いたんだが、なんと、ゾロ先輩と同等ってほど強い御方でもあったんだべ! 
ナミ先輩やウソップ先輩から聞いた話では、戦闘ではルフィ先輩の両側を御二人で固めたりなさるとか。そんで、御二人は日に何度も手合わせをなさっているらしい。
これは是非、この機会に拝見したいべさ!?

――という下心を持って、今、おれはサンジ先輩のお籠りになっているキッチンで先輩のお手伝いをしてる最中だっぺ。
夕食後、皆様が各々ラウンジを出ていった後、サンジ先輩は片付けと明日の仕込みをなさっているんだけんど、サンジ先輩がルフィ先輩のつまみ食いに困ってると仰ったもんで、ルフィ先輩には悪いけんど作業中の先輩の周囲におれの能力でバリアを巡らせてもらったべ。
「おー、お前便利な能力持ってんなー。助かるぜ」
フライパンを手にしたサンジ先輩からそんな御言葉を賜って、上機嫌な笑顔もプラスでついていて、これで先輩方の下僕への道がちっと開けたか!? って感涙に咽び泣いてたら前がよく見えなかったけんど、キッチンのドアが開いたのはかろうじて見えたんだべ。
入ってきたのはゾロ先輩。

開いた片目がおれとサンジ先輩を順に舐め、カウンターに備え付けの椅子が軋むほどどっかと腰を下ろし、一言。
「水」
「てめェにはこの状況が見えねェのか。飲みたきゃ自分で汲みやがれ」
サンジ先輩をぐるりと囲んでおれのバリアが展開してるので、今はサンジ先輩はコップを手渡すこともできないんだべさ。
ゾロ先輩は表情を変えずその様子を一瞥し、無言でテーブルに肘をついたんで、僭越ながらおれが水をコップに汲んで差し出したらば、「おう」と受け取ってくださったんだけんど。
ごきゅごきゅと一息で水を飲み干し、グラスの底でとんとんとテーブルを叩いて、ゾロ先輩は仰った。
「まだ終わんねェのか」
「客人が多いから洗い物の食器も多いし仕込みの量も多いんだよ。もうちょっと待ってろ。じゃなきゃ今日は諦めろ」
「他の奴にも手伝わせりゃいいじゃねェか」
「だからこいつに手伝ってもらってるだろ」
サンジ先輩にくいと指さされて、
「光栄だべさー! いくらでも申しつけてくんろ!」
返事したらば、ゾロ先輩がわずかに目を眇めてまたサンジ先輩に話しかけた。
「待てねェ」
「なら寝ろ。たまにゃ早寝もいいだろ」
「ふざけんな」
「そりゃこっちのセリフだバカ剣士」
………ん?
やりとりを聞けば、なにやら御二人はこの後用事がお有りなんだべか?
もしかして手合わせのお約束があったりすんだべか?!
見たいべ! 今こそ機会到来だべー! 
とはいっても、サンジ先輩のお仕事が終わらなければお流れになってしまうみたいで、けんどおれがサンジ先輩の代わりに仕込みなんてできねェし、あぁ口惜しいべー!
「だいたいこれはなんだ」
ゾロ先輩が、サンジ先輩をつつむおれのバリアを指差した。
「何って、バリアだろ。便利だぜー。これがあれば悪戯っ子もイタズラできねェし」
サンジ先輩が振り向いて、楽しそうにニカッと目を細めてゾロ先輩に笑いかけたら、ゾロ先輩の眉がぴくりと動き、わずかに顔を顰めた。
「……要らねえだろ、こんなん」
ガーン! それはおれが役立たずってことっすかゾロ先輩ぃい!?
まだまだ皆様のお役に立つには力足らずな身だとわかっちゃいるけんども、ちょっとショックだっぺー! 
「あったら便利だぜ? 無ければ無いでそれが通常だからそりゃ平気だけどよ」
サンジ先輩が取り成すように口にするのに納得した、おれの力なんてなくても、サンジ先輩なら1人で十分つまみ食いを阻止できるお力をお持ちだっぺな。
「おい、バルトロメオ」
ゾ、ゾロ先輩が初めておれの名前を呼んでくださったべ!! 
威風堂々とした佇まいで、顎をしゃくる。
「その能力、もういい。あとはおれに任せろ」
「おい、何勝手言いくさってんだてめェ」
「安心しろ、悪戯する奴はおれが追い払ってやる」
「悪戯っ子張本人がいけしゃあしゃあと何言ってやがる」
「おれとあいつらを一緒にすんな」
ゾロ先輩が顔を顰めてそう言うと、サンジ先輩は唇を小さく尖らせて黙った。
どういう意味だっぺ?
「一緒とは言ってねェだろ」
ったく面倒なヤツだなー。
サンジ先輩は肩を竦めると、おれに湯気の立つカップを差し出しながら、礼を言ってくださった。
「ありがとよ、もうバリアはいいぜ。これでも飲んで寝ろ」
「勿体ないお言葉だべー!」
言われるままバリアを解いて受け取ったらば、薄い黄色の液体からはレモンとハチミツの匂いがした、旨そうだっぺー。

……んでも、コレ、いつ作ったんだべか? いくらサンジ先輩が手早くても、一瞬で作れる訳ねェし…? 
ゾロ先輩と話しながら作ってたんだべか?

「ではゾロ先輩にお任せして、おれは失礼すっべ!」
御二方に敬礼すると、
「……ま、こいつには任せられねェんだがな」
「へ?」
「お疲れさん」
サンジ先輩は苦笑し、ゾロ先輩は重々しく労いの言葉をくれたっぺ。
そんな御二方の間に、何やら通じたような空気を感じて……やっぱりこの後御二人には何やら予定があるっぽいべな? 
(うぅ……)
出過ぎた真似かもしれねェ。
けんど、これを逃すと次いつ機会が巡って来るか分からねェし……!

「あのう……、ひょっとしたら、サンジ先輩のお仕事が終わった後で、御二人は手合わせなさるんだべか? だったら是非とも見学させてくんろ! お願ェだべ!」
「………見学ぅ?」
御二方の声がぴったりハモッた。さすが息もぴったりだべ!
「……ハハッ!」
先にゾロ先輩が吹き出して、愉快そうに笑いだした、サンジ先輩は呆れたような複雑そうな苦笑いで眉を下げた。
「手合わせか。間違っちゃいねェかもな」
「黙りやがれマリモヘッド。あー………バルトロメオ。見学は、遠慮してくれ」
「そうすか……分かっただ、御二方の秘密特訓に、おれが首を突っ込んじゃならねェべな」
残念だが仕方ねェ。一味の戦力たるお二人だ、見せちゃならねェものもあるだろう。皆様の意向に逆らうようなこたァしちゃならねェ。
「あーまー……そうだな、秘密、だ。いちおう」
「ほんのちょびっとならイイとおれは思うがな。アホコックがこう言うから、勘弁しろ」
歯切れ悪く苦笑を深めるサンジ先輩と、薄く含み笑いを浮かべるゾロ先輩。
そうと決まれば長居してお邪魔になっちゃいけねェ。
「じゃ、失礼しますだべ!」
大股で部屋を横切り、扉をくぐったところで、サンジ先輩の声が背中に刺さった。
「あ、そのカップ、返すのは明日の朝でいいからな」
はいだべ、と、見返ったその一瞬に、閉じかけのドアの隙間に、見えた光景。

手を挙げておれに声をかけたサンジ先輩の背中から、腕が伸びてサンジ先輩の腰に巻きついた。同時に首筋に唇を埋めたゾロ先輩の隻眼と目が合う。サンジ先輩の顔を見る前に扉は閉じ、内と外は完全に分かれた。



「……そういうことだっぺか」
なるほど、御二方の手合わせは見てェが、さすがにそっちの手合わせは見ちゃならねェべ。
それにしても。
(びっくりしたべー)
男と男の惚れた腫れたで驚くほど初心じゃねェけんど、意表をつかれたっていうんだべか。
扉が閉じる一瞬のゾロ先輩の目が頭をちらつく。
デバガメ趣味はねェんだが、麦わらの一味に並び立つ御二人だからか、凡百の輩とは違うミステリアスなかっこよさがムンムンしてるっつーか……サンジ先輩の顔を見てみたかったべ、とちょっくら思った。

それにしてもさすが麦わらの一味。新事実が出るたびに魅力を増幅させていくべな!
考えりゃあ、仲睦まじい御二人が、いずれ海賊王のルフィ先輩の両側を固める布陣、それって最強じゃねェべか!?
やっぱりおれァあんた達に一生着いていくべー!!

(朝になったらウチの全員を集めて、この話をしてやるべさー!)

拳をぶんぶん振り回しながら心の中で絶叫して、今夜バルトクラブの面々にと宛がわれた寝床へ戻る、意気揚々と、軽くスキップしながら。

(おっと、いけねェ)

御二人の邪魔をしねェよう、抜き足差し足忍び足、だべな。











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はて、なんで2発目からバルトロメオ視点など書いてるんだろう…?と思いつつ。トサカ君がゾロサンを見たらどんな感想を抱くんだろー。
バルトロメオの口調難しいっす……変だと思っても大目に見てくださいませ。

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