「海賊の一番大切なもの」 
A5 ・ 36ページ ・ R18 ・ 400円
発行日:2022/12/03


「ヤローともレディとも寝るななんてゾロは言うけど、んなこと言われなくたってあたりまえ。なんでって? んなの、だって。――なぁ、海賊の一番大事なものって何だと思う? わかんなくたって教えてはやんねーけど。」
両想いゾロサンで、ゾロには内緒なサンジのノロケ話。



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Sample


〈5〜7ページより〉





「サンジ、おめえゾロの旦那なんだって?」
「はぃ?」

開きかけたドアの隙間から、そんな会話が漏れ流れてきた。
栗で山盛りの籠を抱えたコックが、素っ頓狂な声でソファを振り返る。フランキーに怪訝なツラを向けるこの部屋の主を横目で捉えながら、おれはダイニングテーブルに腰を落ちつけた。
フランキーが付け足す。
「デュバル達がお前を指さして、『あれが海賊狩りの旦那か』って言ってたぜ。ありゃあどーいうこった。おめーらそういう仲なんか?」
「…へァ!?」
コックが声を裏返す、その隙に、フランキーが一瞬、こっちに目を寄こした。『ちょっと黙っててくれ』とでも言うような目くばせ。
なんだ?
前後して、コックの顎もわずかにおれの方へと傾き、だがおれが目に入る寸前だろうあたりで、急遽Uターンする。
指で摘むのにちょうどいい形の顎がぐっと上がり、フランキーを睨みあげると、怒鳴った。
「お、おれは、男にアレコレしたりしねーぞっ!!」
「んじゃアレコレされてんのか?」
「………ふぁ!?」
間髪入れずフランキーが切り返すと、沈黙が落ちた。
顎ヒゲの上に鎮座した小ぶりな口が、声も出せずにぱくぱく開閉してやがる。
(アホが、動揺が丸見えだ)
「へー。不精もんかと思ったら、甲斐甲斐しく動くタイプなんか? ゾロ」
否定しないのを肯定と取ったのか、フランキーはコックの肩越しにおれにも矛先を向けた。おれも黙っていると、それも肯定と取ったらしい。
「そーかいいじゃねーの、率先して体を動かすヤツは甲斐性もあるってもんだ。果報者だなサンジ」
機械の腕を、そわそわと落ちつかずにいる肩に乗せ、諭すように頷いてみせる。
「…お、おれァ……ヤローのためになんか動きたかねェんだよ! レディだったらいっくらでもアレコレしてあげてーけど!」
「んー? それが悪いたぁ言ってねェぜ。互いが納得してりゃ、惚れた相手に尽くすのも尽くされるのも、どっちも男冥利に尽きるってもんだろ?」
噛みつかれるのを鷹揚にいなし、何やら思いついたように笑う。
「そういやサンジ、デュバル達に最初に会った時にも、いつでも呼んでくれ、って言われてなかったっけか。おめーにアレコレしたいってヤツがいっぱいだな。モテモテじゃねえか、よっ、色男!」
エプロンの肩ヒモの上をポンッと叩かれて、金ぴかの頭がげっそりと下がった。床にぶつぶつと愚痴を落とす。
「ありゃあ、顔を変えてやった借りを返すってだけの意味だろーが。モテモテとか嫌な言い方すんな。おれァ、ヤローにモテモテとかアレコレとか……」
ぶる、と肩を震わせる。
「断固ゴメンだ! 気色悪ィ!」
「ふん? 気色悪いのはゾロだけでいいってか?」
「そーそー。ンな気色悪いの、コイツだけで十分だってーの! ……んぁ?」
訝しげに上がった語尾に、愉しげな甲高い音が被さった。
フランキーが吹いた口笛だ。
「だとよゾロ。おめーも果報者じゃねーの。期待に応えて、たっぶりアレコレしてやるこった」
コックは、小さく「ぁ」と発した形に唇を凍りつかせている。
(なんか話が変だと思ったが、フランキーの奴、誘導してやがったのか)
コックも当然それに気がついただろうが、時既に遅しだ。
しょっぱなから劣勢だったが、ダメ押しだったな。
今のは、最初の質問にYESと答えたも同じだ。
フランキーは何食わぬ顔に、口元だけわずかに緩ませてやがる。食えねェ奴だ。
ひく、と唇の端っこをひくつかせるコックに、しょーがねーんで助け舟でも出すかと口を開きかけたが、凍りついた唇が溶ける方が早かった。
「…………ぁあ〜〜〜〜〜!」
叫び声とともに、軽い金髪が宙に舞う。
「ッく、…栗! 早く栗剥いちまわねーと! お前ら今晩は栗ご飯だかんな楽しみにしとけ? …んじゃな!!」
あからさまに逃げをうった背中が、バタン! と騒々しく閉じたドアに消えるのを、フランキーは止めなかった。
キッチンに二人だけが残ると、小山みてェな体躯が、ウイーンと音を立てて俺の方へと回転した。
「そんで結局、デキてんだな? お前たち」
「そうだな」
「おめーはけろりと白状すんだな」
「あのアホが先に認めたろ」
「秘密にしときたかったんか?」
「いいや」
さして意外そうなツラもしてねェフランキーに、訊きたいことはこっちにもある。
「知られようが障りはねェが、どういう話だ? 旦那だなんだってのは」



  




〈11〜13ページより〉






「てめェ、女と関係すんなよ」

遠くから何かが突進してくる。
と思ったら、暑苦しい顔がすぐ目と鼻の先に突き出されて――開口一番がそれだ。
「………」
いきなりなんだ。
フランキーの相手を任せてトンズラしたのは悪かったと思わねーでもないが、あの後何かあったのか?
せっかく、一心に栗を剥いて気持ちが凪いできたところなのに。息がかかりそうな距離で鼻息荒げんなアホ。
と、苦情を言うのは省略してやった、なぜなら、返事をさっさと投げつけてーから。
「無理」
「んだと?」 
マリモは気色ばむが、このおれがレディと関係せずに生きてられるはずがねェだろ。ちったァ脳ミソ働かせてモノを言え。
つうかそれ以前に、世の中の半分はレディなのだ。ナミさんだってロビンちゃんだって。関わるなってムリに決まってるだろが。何言いだすんだコイツは。
「やらせる気だってのか」
「んだって?」
「てめェをやらせんのか」
「……?」
「それともてめーがやんのか」
「………なにが?」
徐々に口調が尖ってくマリモが話してるのは一応人語なようだが、理解できねェのはおれだけか?
「だから女だ。アレコレしてやるのか、それともやらせんのか」
「………あのなちょっと待て、意味が」
女、という単語と、やる、やらせる、と言う単語が、頭をめぐる。
(やる、って、なに)
首を捻っても、やっぱし意味がわかんなくて、とりあえず、
「えーと……レディにあれこれしてあげるのは俺の使命だぜ? レディが俺に何かしてくれるってんなら、そりゃあ喜んで受けるけど」
と言ってみると、マリモから殺気めいたオーラがゆらりと立ち上った。
「許さねェ」
「んん?」
「てめーと寝ていいのはおれ一人だ。ほかのヤツをやるのもやらせるのも許さねーぞ」
「………………? ……あ、?!」
やーっとわかった、ような気がする。
「やるって、その、ヤる、!?」
「最初からそー言ってんだろ」 
いやいやいや、わっかんねーよ! 女と関係だのやるだのやらせるだの……わかってから羅列すれば、確かにそういう単語だけど!
(……ってか)
なにを。なんということを言ってんだこの男は!?
やっと話が通じたと思ったらなんつー話だ。
「女にやらせんじゃねーぞ。やるのもダメだ」
「やるやる連呼すんじゃねーよ……頭痛くなるわ。大体、レディにやらせる、ってなんだよ。頭でも打ったか? レディがおれを…ヤる、なんて、あるわけねーだろが」
レディをなんだと思ってんだ?? 同情するレベルのアホを見た。
(頭が)可哀想な子を相手にするようなおれの態度に、だがマリモは平然と応じる。
「打ってねえ」
「んじゃどーやったらんな突拍子もねェこと考えんだよ? レディが男を、なんて」
「おれも詳しくは知らねーが、世の中にはそういうのもあるんだとよ」
「はい?」
「女が道具を使ってやんだとか。どっかで聞いた憶えがある」
「………へー」
思わず生返事になる。
どこで。誰に。どんな話を吹き込まれたんだお前。
問い詰めてやりたかったが、
(や、深く追求するのはやめよ)
それは知っとくべき情報じゃねェ。これ以上知りたくねー!
(あー、ほんとに海は広いぜ)
うんざりしながら、怒鳴る気力もなく、呟きにはたっぷり呆れを滲ませつつ。
「何にせよありえねーよ。ノーだノー。OK?」
額を弾いてやると、くっと唇を締める。話を飲みこんだ時にコイツがよくする仕草。
やれやれ、納得したか。
(……しかーし!)
よかったよかった、で終わりじゃねえぞ。
(ンな特殊な、…プレイ? の心配してんじゃねーよ頭エロ一色なんかお前は!?)
叱りつけてやろうと息を大きく吸った。
――のだが。
(………ぅ)
目前からふわふわ漂ってくる機嫌を上昇させた空気に、どうにも毒気が抜かれてしまった。
ほとほと癪だが、しゃーない。罵倒を投げつけるのは、諦めて。
その代わり。
「……ていうかさ」
くいと顎をひき、俯く。ふぅと考え深げに唇を閉じ合わせて視線を口元に誘ってから、小さく囁く。
「そんなの当然なんだよ。だって……」








―――to be continued.






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